
各種ハンマー製造の三条市金子新田、相豊ハンマー(相田優樹男さん経営)の後継者、相田浩樹さんは、家業である金鎚の製造に加え、新たに玄能の製造に力を注いでいる。相田さんは、同社に入って8年目、玄能製造に本格的に取り組んで3年目になるが、現在持っている技術に納得が出来ず、いまだ自信のある商品を提供できないでいる。
相田さんは、「大工道具は、マニュアル通りに作られるものであれば、大量生産されるとともに、それなりの価値の商品にしかならない。玄能は、日々の天候に合わせた作業、自分の目で見た焼入れの具合など、マニュアルとして文章化できない微妙な作業により、プロの大工の技術に見合う道具になる。職人は、一生修業の気持ちで作業に情熱を燃やさなければならない」と、今日も精魂込めて鋼を鍛えている。
相田さんが、本格的に玄能製造に取り組み始めた当初は、それまで作っていた金鎚の延長で作られるものと考えていた。
「当時は、金鎚と玄能が、どのような用途で使い分けられているのかさえ知らなかった」
7年前に、大手ハウスメーカー、竹中工務店が運営している、兵庫県神戸市中央区中山手通四、竹中大工道具館を訪問。ビデオライブラリーの中に、地元三条市の玄能鍛冶の作業風景が収められていたが、それを見ても、技術のすばらしさを認識するまでには至らなかった。
2年前に、金鎚製造の延長上で、玄能作りに取り組み始め、製品化した。しかし、問屋に売り込む時にPRする点が見当たらず、改めて「玄能は玄能として考えなければ、よいものは作れない」として、玄能作りの勉強を始めた。
「しかし、勉強すればするほど疑問が募るばかり。竹中大工道具館で見た三条の玄能鍛冶のビデオを取り寄せ、見様見真似で取り組んだ。独学で工夫しながら何回もチャレンジしたが、思うようなものを作ることができなかった」
実際に、ビデオに収録されていた、玄能鍛冶のもとで勉強したかったが、当時、その玄能鍛冶は現役だったため、教えを請うことができなかった。
しかし、1年半前、玄能鍛冶が65歳を節目に現役を引退したのに合わせ、玄能鍛冶のもとで勉強させてもらえるよう、申し入れた。
「最初は電話でお願いしたが断られた。しかし、どうしても優れた玄能を作りたいという強い思いで、何回か、足を運んだ。おかげで、ようやく、勉強させてもらうことが叶った。その人のおかげで、今まで作っていたものが、玄能とは似て非なるものでしかなかったことに気付かされた」
相田さんは、その玄能鍛冶から、玄能作りの正統な手法で、一つひとつの工程をないがしろにしないことを教わった。
「その人からは、ものづくりに対する姿勢も教わっている。『本当にすばらしく、自分でも納得のいく玄能ができるまでは、商品として、市場に出すな。そうでなければ、作り方を教えることはできない』とも言われている。正直に、早道せずにじっくり取り組んでいきたい」と、玄能作りに、厳しい姿勢で臨んでいる。
金鎚は、釘を打つのに使われる。頭の一方の端は平らで、もう一方は、尖っている。尖っている方は、木と木を直角に接合する時など、平らな面では打ちにくい隅打ちをする時などに用いる。
玄能は、本来は、鑿(のみ)を叩く時に用いる。玄能の頭の両端が同じ大きさなのは、そのためだ。
「鑿を叩く場合、『カエシ』といって、利き手と反対の方向から叩く作業がある。そのために、頭の両端は同じ大きさに仕上げる」
しかし、玄能も次第に釘を打つ道具として使われ、一端は平らに、反対の一端はほんのりと中高に作られるようになった。中高に仕上げた端で、ほぼ打ち込んだ釘を最後に叩き締める。今でも鑿を叩く専用に作られた玄能は、両端を平らに仕上げる。
玄能の頭は、鋼が素材になっている。これに加熱冷却して組織を変え、必要な硬度に加工する。また玄能には、頭全部を鋼にする「丸鋼」と、鉄を使い、叩く面の両端に硬い鋼を張り付けた「付け鋼」という2種類がある。
「付け鋼」では、鉄材と鋼を付ける技術や、中高になっている鑿の頭部を包み込むように叩くことができるよう、両面の鋼を、外縁部は硬く、中央部を軟らかくする技術が求められる。
そのほか、ひつ(柄を仕込むために頭に開ける穴)のバランス、姿の美しさなど玄能鍛冶に求められる技術は幅広く、奥深い。
名人と謳われた地元三条の玄能鍛冶は、ビデオ映像の中で、付け鋼の作業を行い、優れた玄能を作り上げていた。
「その玄能鍛冶は、『火造り』といって、ハンマーとわずかな鍛造工具だけを使って、勘を頼りに成形する。5歳で金鎚鍛冶のもとに奉公に出て、10代の終り頃に玄能作りに転向。以来、玄能鍛冶一筋に励んできた。鍛冶職人として60年がんばってきた。優れた玄能を作る技術が身に染みており、傍から見ていると、天才に思える」と、技術の高さに驚いている。
修業を始めて2年目になるが、いまだ自信を持って提供できる製品を作られないでいる。
「マニュアル通りに作業すればできるような道具は、やはりそれなりの価値しかない。何年掛かるかわからないが、プロのおめがねに適うような製品を作って、胸を張って自分の看板を出していきたい」とし、日々、技術の習得に励んでいる。

正直にじっくり職人の技 身に付ける
玄能づくりに取り組む
新潟県三条市 相豊ハンマー 相田浩樹さん