ものづくりの現場に驚嘆
ドイツのバイヤー来条
ディック社と10年来の角利産業へ
 ドイツのバイヤーが1月27日、新潟県三条市を訪れ、市内の刃物メーカーなど数社を見学した。

 来条したのは、バイエルン州メッテンでバイオリンの部材を供給している「ディック」社のルドルフ・ディック社長。技術の国ドイツで150年の歴史を持つ老舗も、三条産地が誇る高い品質と丁寧な仕事ぶりには驚かされたようだ。

 ディック社は、三条市東本成寺、角利産業(株)(加藤敏敦社長)と10年ほど前から取り引きを開始。以来ディック氏は、1991年から97年まで2年置きに4度来条。93年には、バイオリン製作のマイスター、コンラッド・ストール氏とともに訪れたこともあった。

 5年ぶりの今回は「新しい商材の発掘と人々との出会いに期待」とディック氏。27日に来日した。

 この日は、刃物メーカー3社、木工メーカー1社を訪問し、各社の製造現場をつぶさに見学した。

 午後3時半すぎには、三条市南四日町2、重房刃物(飯塚解房代表)を訪問、飯塚さん親子が鋼付け、せんがけ、研ぎの工程を披露した。

 同行した、加藤睦宏角利産業叶齧アの通訳を介し、ディック氏は、「先代も鍛冶職人だったのか」「鋼の材質は」「後継者の育て方は」「地金はどこのものか」「火造りと研ぎの割合は」などと、工程や道具の一つひとつに関心を寄せ、次々と質問を浴びせていた。

 ディック氏は工学博士でもあり、金属、刃物の知識にも精通。三条鍛冶の技を伝える、岩崎重義さんの教えを受け、今では特技の一つとして、刃物を作れるようにもなったほどの腕前。

 せんがけの作業では、自ら率先して作業台に座り、積極的に体験していた。

 「彼は、商品だけでなく、職人と出会い、ものづくりに対する考え方を聞くことを大切にしている」と加藤専務が言うように、ディック氏の質問は尽きなかった。

 見学を終えたディック氏は「多くの包丁工場を見たが、その中でもっとも素晴らしい。この仕事ぶりを見ると、ドイツのシェフがこの包丁を使っても、メンテナンスできるか心配だ」と感謝の気持ちと、今後の課題を語った。

 ディック社が日本の道具に関心を持ったのは、ドイツへバイオリン製作を学びに来ていた日本人が使っていた道具が、マイスターの間で評判になったため。

 「いいものを作るには、いい道具が必要。バイオリンを作るには日本の刃物工具が最適。値段は高くてもいいから、品質のよい道具がほしい」と、ディック氏が来日。縁あって人づてに角利産業の紹介を受け、間もなく取り引きが始まった。

 当初は、三条、与板製品などのノミ、カンナ、玄能、ナタ、マサカリ、毛引きなど60アイテムにとどまっていた注文も、次第に増えた。

 半年に1度の注文が、2カ月に3度のペースになり、現在の取扱品は25社・360アイテムに上る。ドイツをはじめ、ヨーロッパの楽器職人や工作愛好者に使われている。

 デイック社では「道具を使って、ものづくりをしてほしい」という方針のもと、単に道具を売るだけでなく、愛好家を増やすことを重視。研修施設やショールームを設け、扱い方やメンテナンスのセミナーも開催している。

ディック社のこだわり示すカタログ この姿勢は、カタログの作り方にも表れている。道具の使い方、メンテナンス方法、さらには職人も紹介し、道具にまつわる背景に力を入れ、価格は二の次といった印象さえ受ける。

 さらに「職人は、自分で使う道具を自分の手で作りたいものだ」と、今後はドイツにおける半製品の取り扱いについても提案しているという。

 角利産業では、技術を大切にするドイツには、日本の刃物(道具)を受け入れる需要があると確信。道具を通して日本文化も伝えようとするデイック氏の姿勢に刺激を受け、一歩進んだビジネスに発展することに期待を寄せている。
                                                (斎藤)