心にのこる出会い
写文集 「店のある街の風景」・「残映」
コメリ会長 捧賢一さん自費出版
根は経営と一緒「調和」ですね
 ホームセンター大手、新潟県白根市の(株)コメリ会長の捧賢一さんは、写文集「店のある街の風景」と「残映〜心にのこる出会い」を自費出版し、4月1日、書店に並んだ。

 社内報の企画で連載した写真をまとめ、8000人の社員への贈り物として「店のある街の風景」を、同じ内容だが、一般向けの販売用として「残映」をまとめたもの。 

 忙しい合間を縫って、撮影した写真だが、いずれの作品も、構図、光の具合など、撮影者の思いが伝わってくるようで、素晴らしい作品ばかりだ。

 急激に業績を伸ばす会社経営者としてのイメージが先行しがちな捧さんだが、文章、写真と文芸面でも際立った才能を持っている。「経営には、必ず一つのバランス『調和』が必要。私にとっては、写真も『調和』なんです」と、根は一緒なのだという。

かわいらしい猿の写真も 社内報での連載名は、「店のある街の風景」。捧さんが文章を書く時に使うペンネーム、榊鶏司の名で文と写真を掲載している。全国展開しているコメリ各店を巡り、その土地で出会う風景、名所旧跡、人びとを写し、原稿を書き、店のある土地の風土、お客となる人びとの特徴などを社員に伝えている企画。

 連載開始当初は、現在、捧さんが会長を務めている越後文学会の創立者、緑川玄三さんに文章を依頼、写真は三条市月岡、(株)明間印刷会長の明間洋三さんが担当。3人で取材していたが、緑川さんが体調を崩してからは、捧さんが一人3役をこなし、15年になる。

 「かつて、緑川さんが、私の文章を見て『社長なら、もう少しまともな文章を書け』と言われて、越後文学会に入った。それで、文章を書き始め、社内報となり、カメラとなっているわけですな」

 このたび、撮りためた写真を写文集にまとめたのは、古稀を境に会長職に就いたことがきっかけ。「会長になったし、古稀のお祝いもしてもらったので、店を回った場所の写真を写真集にまとめて、社員にプレゼントしようという思いで始めた。そうしたら、周りの人から、おだてられて」と笑う。

 捧さんは、若い頃にカメラを持ったことはあるが、撮影方法などは誰に習ったわけでもなく、まったくの独学という。「絵が好きなこともあったので、カメラはよくいじっていたが、特別誰かにならったわけではなかった。ただ、絵を描くには時間がかかる。写真は、それが一瞬でできる。それに、思い入れがないと作品にならない。写真だけでなく、文章、絵でもそう」と、写真を愛する理由を語る。

 カメラ愛好者というと、とかく、道具にこだわるといったイメージが先行するが、捧さんが使用しているニコンのカメラは会社の備品。レンズも35ミリから200ミリまでのズームレンズと、花を撮る時などに使う接写レンズの2本のみ。

悲劇の武将義経と重ね合わせたツバキ レンズ2本で、迫力ある構図、絶妙な光の加減を自在に表現している。フラッシュは「めんどくさい」ので使わない。普段は、カメラを携帯したりすることはせず、取材旅行の時だけ、カメラを持って行く。

 ときに写真集などを鑑賞する。特に「古寺巡礼」や「筑豊のこどもたち」で知られる土門拳を好む。「古寺巡礼の全集を買って、疲れた時などに眺める。後はたまにカメラ雑誌を買うこともあるかな」

 昭和52年にホームセンター1号店を開店して以来、極めて多忙な捧さん。各店舗を回るのに大抵2泊3日で、その間に十数店を回る。そのうち、写真撮影に割ける時間は半日程度。被写体が、自分自身の思うような構図に収まるまで待っている時間的な余裕はない。

 捧さんは、写真の秘訣を「やっぱり、忙しい中の短い時間だからこそ、かえってよい作品が撮れる。私の写真は、感動のままに、シャッターを切っている」と明かす。多忙さから、逆に集中力が生れてくるようで「日曜日、冬の寒い日などは、朝食を食べてから、こたつに入ってうとうとしていると、一日中何もしていないことがある。ところが、原稿の締め切りが迫って、宿題を預けられていると、2時間くらいで書けてしまう」とも。

 現地の観光パンフレットや事前の情報を参考に、赴く場所は決めているが、「自動車でまちを2、3周している途中で、シャッターを切ったものも多い。時間を待ってタイミングを合わせることはほとんどないですね」

迫力ある本成寺の鬼 写文集の編集を手掛けたのは、新潟県写真家協会会長の弓納持福夫さん。序文は詩人の宗左近さん、帯は、作曲家の小椋佳さんで、捧さんの幅広い人脈の一旦をうかがわせる。

 「残映」の表紙は、地元三条市・本成寺の鬼踊りの鬼、中表紙には、夕暮れを背景に映える弥彦山の写真を使っている。

 全ページにわたって、左側のページ全面に大きな写真、右側には、文章と小さな写真という構成。

 捧さんの、それぞれの作品に対する思い入れは深い。

 宮本武蔵生誕の地、岡山県大原町を訪ねた時には、武蔵と見まがうばかりの老婆を見て、思わずシャッターを切った。「武蔵の墓にお参りして、降りて来た時、ちょうど出会ったのですよ。杖を突いていて、髪がボウボウで武蔵に見えて、よい写真でしょう」と笑う。社内報では、老婆をトリミングして迫力のある作品として掲載した。

 また、滋賀県竜王町では、源義経が元服した場所と伝えられる鏡神社で、池に落ちた一輪のツバキを、悲劇の武将義経のイメージと重ね合わせて撮った。「義経の一生を思っていたら、たまたまツバキが落ちたので撮ったのだが、なんともいえない道中だった」と振り返る。

 また、パラグライダーを撮っていたら、上空から手を振って「うまく撮れたでしょ」と声を掛けられ、自動車を走らせて偶然見つけた石仏を撮影するなど、それぞれの作品に、捧さんのみが知る物語が秘められている。

 猛烈な勢いで店舗数を増やすホームセンター経営者、文学会の代表者、写真家など、八面六臂の活躍をしている捧さん。

 写真の腕のよさについては、「道楽なのかな」と苦笑するが、すべては会社経営とつながっているようだ。  

 「経営の中には、必ず一つのバランスがある。これが崩れれば倒産する。仕事は、数字だけではない。世の中に生かされているなかで、どう生きるかが『調和』。仕事とレジャーを切り離す生き方もあるが、私の場合は一緒。調和とは美しさであり、豊かさと美しさを求めるのが人間。核心でもあると思う。経営者の方で美術品を好む人が多いのはそういうことだろうと思っている」と語る。

 さらに、取材旅行でお客に直結した現場を回ることも楽しみの一つで「本部に居れば、問屋さん、銀行の方などいろいろ来られるが、やはり現場ですよ。繁盛している店、あともう少しの工夫で繁盛するような店。社員とコミュニケーションして、本部への意見を聞く。みんな会長が来てくれたと喜んでくれる。商人の喜びは、お客様の喜びが一番だが、社員の暮らし、気持ち、どんな店をつくっているか、これを自分の目で確かめるのが一番」と旅行の狙いを話す。

 今後も写真は撮りつづける。「店を回り、写真を撮っていると、歩くからか体調もよい。第2弾は、米寿の時かな」とにっこり。

 なお、10日から18日まで、新潟市山田、雪梁舎美術館で、出版記念写真展を開催する。開場時間は午前9時半から午後5時まで、入場料は一般500円、中学生以下は無料。
                                                (重藤)