人間らしさ担う人間性知能「HQ」
「ホンマでっか」でおなじみ、澤口先生講演
 フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」でおなじみの脳科学者、澤口俊之さんを講師に迎えての講演会、「子供達の未来と、明日の大人達のための脳教育」が、文化の日の3日午後2時45分から、加茂文化会館大ホールで開かれ、多くの人が聴講した。

 加茂商工会議所青年部の創立20周年記念講演として開催されたもので、午後1時30分からの式典に出席した同青年部の会員や県内外の青年部の会員150人ほどに加え、一般にも公開したことで市内外から多くの聴講者が参集。午後2時30分からの開場にも関わらず、早い人は午後1時過ぎには会場に足を運び、開場時間には2カ所の入り口に行列ができるほどで、講師の人気ぶりをうかがわせた。

 司会者の講師紹介に続き、登場した澤口さんに会場からは割れんばかりの拍手。澤口さんは、これに手を上げて応えた。

 澤口さんは、「(テレビのイメージで)何かおもしろいことを言うと思われるかもしれないですけど、学者なんでまじめなんですよねぇ。(出演者の)皆さん、『ホンマでっか!?TV』に出始めてから、講演がしにくくなったって言ってますよ」と、言葉とは裏腹に会場の笑いを誘った。

 講演では、澤口さんが所長を務める人間性脳科学研究所で研究を重ねている「人間性知能『HQ』(Humanity Quotient)」の役割と重要性について指摘。その向上方法も伝えた。

 脳科学という難しい分野の話ながらも、澤口さんは映像を用いながら分かりやすく解説。時折、自身の経験やテレビの裏話なども交えて笑いを誘い、予定の1時間30分を超える講演にも、聴講者はあきることなく聞き入っていた。
                                            (石山)
 講演要旨は次の通り。

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 小学校で国語や算数、社会、理科、音楽、体育と多くの教科があるが、これにはちゃんとした理由がある。

 多重知能という考え方があるが、我々には多くの知能を持っている。言語を扱う知能や空間的な位置関係を把握する知能、論理的な考え方をする知能、身体的な知能、記録や記憶もそう。

 例えば、すべての知能につながりがあり、1つの知能を伸ばせば、ほかの知能も伸びるというのであれば1つの教科だけを教えていればいいのだが、残念ながらどれも無関係。そこで、言語なら国語、論理なら数学など、これらを1つひとつ伸ばすために各教科がある。

 脳科学的に見ても、脳のさまざまな領域を網羅している。脳のいろんなところをまんべんなく伸ばしている。しかし、決定的にまずいのは、前の脳、前頭前野を教育で伸ばすというところが無視されている。この前頭前野が担っている能力、知能を伸ばす機能がない。

 前頭前野が担っている知能が無視されてもいいくらいのものであれば、それでも問題はないが、実は、これこそが1番重要で人間性知能と呼んでいる。前頭前野は、1960年代、70年代までは、それほど大事なことをやっていないと思われていたが、すごく重要なことが分かった。

 ほかの脳の領域は、領域によってさまざまに違う働きをするという特徴を持っている。役割分担をしている。だからこそ、知能ごとに違う教育をする必要がある。しかし、それらがまとまらなければ、人はまっとうな人生を歩めない。そこを担っているのが前頭前野。

 前頭前野は脳のコントロールセンターのような役割を果たしている。違った役割を果たしている脳領域をうまくコントロールするという働きを持っている。スポーツの監督のようなものでもある。野球にしても、サッカーにしても、個々の選手がよくても、監督がダメだったら、選手の起用や作戦を間違ったりして勝つことができない。なでしこでも佐々木則夫監督の力があって勝つことができた。選手が同じでも、監督が変わったら戦術が変わり、チームが変わるように、前頭前野の働きによって脳の働きが変わってしまう。これを無視するというのは、自分をコントロールするような領域を無視するのはうまくない。監督を無視するようなもの。

 言語や理論、記憶などももちろん重要な能力だが、人間にとって最も重要なのは未来志向的行動力。記憶には未来に向かった記憶があり、きょうの講演にも、「講演に行く」ということを記憶していなければ来ることができない。未来を志向して生きるというのは人間の最も重要な能力。人間に近いチンパンジーは、1日先しか見えない。しかし、人間は1年、10年、20年、30年と先を見て行動することができる。

 あとは人間だけではないが、社会関係力も担っているのが前頭前野。人間ほど協調的な生き物はいないと言われるが、人間らしさを担っているのが前頭前野。

 最近言われるのが、日本を今度どうしていったらいいかという時に、だいたいの先生が、同じように4つの事を言う。それが、「明確なビジョンとぶれない信念」、「あきらめずに道を切り開く気概」、「他者のありがたみを知ること」、「相手の立場を意識した行動力」。少なくとも、この4つは重要なことと言われる。

 このうち、「明確なビジョンとぶれない信念」、「あきらめずに道を切り開く気概」は未来志向的行動力であり、「他者のありがたみを知ること」、「相手の立場を意識した行動力」は社会力。つまりはHQ。逆に、こういう能力を持った人が、特に政治に少なくなってきているのではないか。

 一流大学を卒業し、一流企業に就職する。一流大学を卒業したのだから、当然、勉強はでき、頭も良いと思われる若者が一流企業に入って来るが、問題はその後。ドロップアウトしてニートになる人が激増している。私が調べたところでは、新入社員が1年以内にドロップアウトして、ほかの企業に入社するわけでもなく、実家に戻ってぶらぶらしているのが30%から40%。厚生労働省の調べでも12%となっている。

 ドロップアウトしてしまう人の共通点はHQが低いということ。勉強ができるからといってHQが高いとは限らない。前頭前野以外のところをいくら伸ばしてもHQは伸びない。ただ、監督が良いと選手が伸びるように、HQが高いと勉強ができるとういことは証明されている。しかし、逆はない。

 ある一流企業で調べたところ、新入社員の平均のHQに対し、2年目も在職している人のHQは高くなる。しかし、これはHQが上がったということではない。HQというのはそう簡単には上がらないもの。ではなぜ上がったか。それは、辞めた人のHQが低いから。低い人は辞めるので、2年目以降も残る人の平均は高くなる。

 役職や年収で見てもHQの高い人は高い傾向にある。非常にキレイな相関関係がある。恋愛関係にもHQは関係する。HQの高い人はいい恋愛やいい結婚をすることができる。そして、HQが高い人ほどもてる。

 結婚したら不和は絶対に避けてほしい。家庭不和の状況が続くと、子どもの学習障害の割合が高くなる。さらに、知能レベルにも影響を与え、円満な家庭に比べると下がってしまう。最近の研究では、両親の強い不和を見て育つと、子どもの脳は委縮してしまう。子どもは良いものを見ると脳も良くなり、悪いものを見ると脳は委縮する。

 まだ記憶に新しい東日本大震災。各局で、津波の映像が流れたが、ああいう悲惨な状況を子どもに見せるのはまずいのではないかと危惧していた。その時に、テレビ東京は、アニメを流していてひんしゅくを買っているが、私は逆だと思う。アニメを見ていた方が子どもにとっては良かったのではないか。けんかをするのであれば、子どもが見ない外ですればいい。

 離婚も良くない。日本でも近年、ADHD(注意欠陥・多動性障害)が問題とされているが、離婚するとADHDの割合が1・5倍くらいに一気に跳ね上がる。

 離婚率、不和の傾向を見てもHQが関係している。HQが高い夫婦は、結婚も良好で、不和や離婚率は低い。主観的な成功度、幸福度を調べてHQとの関係を見ると、非常にキレイな相関関係になる。HQは成功知能、夢を叶える知能と言ってもいい。

 その逆、うつ病になるとHQは低下してしまう。特に自殺の可能性の高い、重度の人ほどHQは低くなる。さらにまずいのはASPD(反社会性人格障害)。これは典型的なHQ障害。APSDの定義は、反社会的行動を繰り返し、反省しないというもので、凶悪犯や性犯罪者に多いと言われる。アメリカの3・6%がこのAPSDと言われ、頭の良さとは無関係。

 こうしたように、HQは人間として最重要な知能と言える。HQが高いと、激動の時代に対応して生き抜くことができ、社会的にも成功し年収も高い、恋愛や結婚も良好で、幸せになり、うつ病にもなりにくい。ほかにも、病気になりにくい、寿命など多くの社会的、人間的なことがらとの関係も認められている。

 そして、学校の勉強はできてもHQが高いとは限らない。今までの学校教育は、HQを伸ばすような教育をしていなかったということ。では、どうしたらHQを伸ばすことができるのか。幼少期の頃に伸ばすのが1番簡単。

 20歳の時の臓器を100とした時に、各臓器は何歳の時に何%なのかを見ると、脳の成長は早く8歳の時に95%。だからこそ、幼少期が重要になってくる。8歳まで、特に5歳の頃に脳は1番発達する。12歳でも、16歳でも脳は発達するが、やはり幼少期。この頃であれば、HQを伸ばすのは簡単にできる。

 HQに効果的な脳トレーニングを行うことで、簡単にアップさせることができる。HQを向上させることで、協調性など社会に必要な能力も高くなり、一般知能、IQも高くなることが分かっている。

 成人ではどうしたらいいか。まず老化や認知症で、記憶力が弱くなる、物忘れが激しいなど、記憶障害が兆候と言われることが多いと思うが、そうではなく、脳科学的には前頭前野の働きが低下するため。あとは血液、血管が前頭前野には非常に多く血流量も多い。心臓の血管系が弱まると脳への血流量が減っていく。そうすると、1番影響を受けるのが、1番血流量のある前頭前野。

 HQの平均的な能力は、個人差はあるが、20歳を過ぎてから年齢とともに下がってくる。しかし、キチンとした方法で脳トレーニングを行えばHQは向上し、HQが向上することで脳の若返り効果も期待できる。

 HQ向上には脳トレーニング的な方法がいいが、特に高齢者には有酸素運動も効果的。前頭前野には1番血流量があるので、有酸素運動で血管を活性化させることで血流がスムーズになると、前頭前野の働きが活発になる。50歳ころまでは週に1回から2回の「やや激しい運動」が効果的。ほかにも、中高年以降の男性では後進の指導もHQの向上に効果的で、特に女性は「孫の世話」もいい。
 2011年11月06日本紙掲載