テレビでもおなじみの政治評論家、岩見隆夫さんの講演「どうなる日本の政治・経済、これからの政局の焦点」が、5日午後3時30分から、新潟県三条市旭町二、ハミングプラザビップ三条で開かれた。三条市五明、パール金属(株)(高波久雄社長)の新年会の基調講演として行われたもの。
1958年に毎日新聞に入社し、政治記者として日本の政治を見続けてきた岩見さんが、現在の民主党政権、野田佳彦総理をはじめとした政治家の評価、そして、可能性の高まる総選挙の見通しについて解説した。
岩見さんは、講演にあたり、今年を、アメリカ大統領選挙をはじめ、韓国、中国、ロシアなど各国のリーダーが選ばれる重要な年とし、「これらの国では、選ばれたリーダーは任期中はそのイスに座っていられる。よほどの失政か、急死とがなければ地位は安定する。その間に計画的に国家の運営ができる。当たり前の話だが、我が日本は、来年の正月、日本の総理が誰なのか誰にも分からないのが現状。野田佳彦現総理ではないのではという観測が強い。しかし、代わって誰がやるのかと言われると分からない。これでは、ほかの国と勝負にならない。こういう問題をそろそろ解決しないと、この国は危ういことになる」と話し始めた。
(石山)
講演要旨は次の通り。
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元日付の産経新聞の1面に載った「ザ・リーダー」という連載記事を見て驚いた。この中で、20代から60代の有識者1303人にネット調査を行ったという。理想的なリーダーは誰かという質問の答えが、1位は坂本龍馬、2位が織田信長、3位が徳川家康、4位が小泉純一郎、5位が橋下徹。小泉、橋下という2人は非常に似ていて、アジテーターとしては超一流。しかし、リーダーとして理想的かというと私はそうは思わない。橋下さんにいたってはまったく未知数。それが4位、5位。
戦後、野田さんが33人目の総理だが、小泉さんより理想的で貢献度の高い総理は何人もいる。私は、吉田茂、岸信介、佐藤栄作、中曽根康弘、この4人は小泉さんよりは評価は高い。しかし、調査ではそうならない。問題はベスト15の中に、現職の国会議員が1人も入っていない。リーダー不在、リーダー不足が極まっている。東京都の石原慎太郎知事が13位につけているだけ。
驚いたのは、次のあなたがリーダーにしたくない人。1位が鳩山由紀夫、2位が菅直人、3位が小沢一郎、4位が渡辺恒雄、5位が野田佳彦。渡辺恒雄は政治家ではないので除外すると、すべて民主党の政権のトップ集団。これは世間が民主党政権に拒絶反応を示していると見るしかない。これが2012年の正月の政治の現実。
今年の政治で決まっていることは、4月に小沢元民主党代表の一審判決が下される、9月に民主党と自民党の党首選挙が行われる。これははっきりしていること、確定的なことは、消費税選挙が行われること。時期は3月、4月、6月、9月といろんな説があるが、政治情勢によって変わってくる。
民意は民主党から離れてきている。だからといって自民党の支持が上がってはいない。ただ、民主党よりは有利という状況。民主党は今、選挙をやれば必ず負ける。民主党は負け覚悟の選挙はやりたくない、できるだけ先延ばししたい。自民党は今が比較的チャンス。これが今年の政局の基本構図。ただ、そう単純ではなく、民主党内の対立、新党という要因も出てきている。
消費税選挙と言われているが、4日の会見で野田総理は「ネバー」という言葉を4回繰り返した。絶対あきらめないと。しかし、野党はこのままの状態では協力できない。成立の見通しは立っていない。この大きなハードルを乗り越える状態にはない。野田さんは自身の論文の中で「大平正芳さんに学ぶべき」と言っている。大平さんはすでに亡くなっている元総理大臣だが、1979年に総理になり、財政再建のため一般消費税を導入するという覚悟をする。ところが、党内の激しい闘争を生み、導入を断念するが、それでも、その年の選挙で惨敗。翌1980年に急死する。悲劇の宰相だが、この人に学ぶとはどういうことか。失敗を覚悟でやるということになるのだろうか。彼の決意が今後どう出てくるかは注目。
消費税に関わった総理大臣の多くは相当な深手を負っている。菅さんも総理になった時に「10%」と言ったが、袋叩きにあって、すぐに引っ込めた。それと比べると野田さんは身構え方が違う。ただ、野田さんという人は政治の手法が分かりにくい。
去年の暮れの臨時国会で一川保夫防衛大臣と山岡賢次消費者担当大臣の問題があったが、当然、首を切って会期を延長して国家公務員の給与削減法案を通して、議員定数も削って、それから消費税の法案作成にとりかかるだろうと思っていたが、そうしなかった。なぜ野党の反発を買う、国民の反発を買うことをするのか。2人は小沢グループ、野田さんは党内融和策を優先している。
そして、今追い打ちをかけているのが新党問題。4日、民主党を離党した9人が「新党きづな」を作った。それ以外にも新党の動きはあり、1番の注目は石原新党。石原知事が知事を辞め、次の衆院選に出馬する。その前に、石原さんを党首とする新党を立ち上げるという動き。これはインパクトが大きい。橋下大阪新市長の大阪維新の会も同調しそう。ほかのローカル政党もはせ参じるという動きになっている。これを進めているのが国民新党の亀井静香代表。民主や自民の選挙に自信のない人が集まり、石原新党やるべきという人もやってきて、すでに離党しているような人も集まると、石原新党は第3勢力として政局の主導権を握り、石原内閣総理大臣の可能性もないわけではない。年齢と過激な発言が気になるが。
小沢新党の噂もあるが、その可能性は薄いだろう。では、小沢さんは何を考えているのか。4月の判決で無罪を勝ち取り、9月の民主党代表選に出馬して勝つ。勝てばイコール総理大臣。例え短くとも総理大臣になり、それを政治家としての総仕上げにしたいのだろう。ただ、これも実現は難しいだろう。小沢さんは今の政治家の中で、最も金権的で最も古く、総理大臣になったら最も何をするか分からない。国民もそういう選択は避けるだろう。石原新党と組むということもない。小沢時代は終わりかけているのではないか。
では、野田総理の持久力はどれだけあるのか。最近の歴代総理はすぐに辞める。総理は辞めればいいというものではない。時には粘ってでも続けなければいけない。一般的な野田さんの評価は鳩山さんや菅さんよりはましではないかという感じ。野田はダメだと見切りをつけるという感じではない。
歴代総理は就任するとキャッチフレーズを発信しているが、野田さんはキャッチフレーズはつけないと言った。このキャッチフレーズ、過去にどんなものがあるかというと、鳩山さんは「無血の平成維新」、菅さんは「奇兵隊内閣」。先輩のキャッチフレーズを見て野田さんは失敗したなと思ったのだろう。2人の轍は踏まないとノーキャッチフレーズを決めた。ここに野田さんの慎重さが表れている。
ただ、野田さんというのは言葉が少なすぎる。発信力が足りない。野田さんにも伝えたことがあるが、その時、野田さんは「私はもともと無口な男です。たまりにたまったものを最後に吐き出すだけ」という趣旨のことを言われた。無口と言われれば仕方がないが、言うべき時には懇切丁寧に言わないといけない。消費税問題でも「大義がある」と言っているが、その大義もかみ砕いて説明しないといけない。
リーダーについての話をすると、野田さんは戦後33人目の総理。戦後66年で33人だと単純に割ると1人2年。33人の中で割合に長期政権だったのが、吉田茂、佐藤栄作、中曽根康弘、小泉純一郎の4人。この4人で26年。この4人を引くと、残る29人の総理は1人平均1年半弱。他国のトップの任期は4年や6年、ところが日本は次々に総理が変わる。これでは話にならない。日本のマイナス要素。これを続けていると、日本の国際的地位は下がり、国力は下がる。同じ敗戦国のドイツは戦後66年で8人。今のドイツの国家財政は健全、対して日本は1000兆円の借金超大国。
最近の総理は昔に比べると小粒になったと言われる。過去にはひとかどの総理もいた。なぜ今の政治家は小粒になったのか。政界における人材育成というのは自民党政権時代は派閥があり、派閥で政治家は磨かれると言われたが、今は派閥がほとんどあってなきがごとし。
そして、何よりも選挙制度。小選挙区制では1つの選挙区から1人しか当選しない。当選か落選かしかない。選挙区が心配で心配で政治が手に付かないという状況。中選挙区制のように3人から5人の定数があると、多少手を抜いて、本業の政治に一生懸命になっても3位か4位で当選できた。小選挙区制になって、魅力的な政治家がぽろぽろと落ちてしまった。小選挙区制度はよくない、日本の政治土壌にもなじまない。政界の幹部連中に聞くと、皆がそうだという。それならやったらいいかというとできない。皆、小選挙区制度で当選してきている人。変えると自分に都合が悪くなる。つまりは自己保身。
もう1つは、日本の総理も任期を4年や5年などハッキリと決めて、その間は、安心して腰を据えて国の運営に携わるというシステムにしなければいけない。それには総理公選制。国民の直接投票で総理を選ぶ。アメリカも韓国もそう。これはずっと言われていることだが、それをするためには憲法を改正しなければいけないから無理だと言われ今日まで来た。これが日本の政治のだらしのないところ。憲法改正が難しいから難しいとあきらめる。1番大切なことを後回しにしてきたのが、戦後政治のまずい特徴。
選挙制度の改正と首相公選制を取り入れる方法を講じなければいけない。今は、そのギリギリの時にきている。
日本の政治はこれからどうなるかと心配している人は多いと思うが、今の政局と似ていると思うのが1993年。この時、細川護熙さんが日本新党を旗揚げした。今は、まだ立ち上がってはいないが石原新党や大阪維新の会などもある。そして、1993年は、自民党から小沢グループが出て新政党を作り、武村正義グループが新党さきがけを作った。自民党から2つのグループが出ていった。今も民主党から離党が次々に出ている。今のところはスケールは小さいが、民主党が崩れ始めている。
そして、1993年は選挙が行われ、結果、過半数の政党は1つも無かった。過半数にはならなかったが、自民党が圧倒的な第1党だった。今もこのまま選挙が行われれば民主党は300から半分に減るだろうと言われる。その分だけすべて自民党が増えるかというと、そうではない。どこに議席がいくかというと、みんなの党やこれからできてくるかもしれない新党など、自民党や民主党ではない政党に票が散らばっていくのではないか。
つまり、1993年と今と共通するのは過半数の政党はなくなるということ。1993年の時は、自民党がボヤボヤしているうちに、自民党と共産党を除いた8つの政党を1本にまとめ非自民政権を樹立した。これを束ねたのが小沢さん。この時に日本新党は自民党と組んでもいいと両にらみでいた。そこを、自民党がもたもたしているうちに、小沢さんがつばをつけた。細川さんを総理大臣にして自民党政権を終わらせた。
では、小沢時代が終わりかけている今、誰が細川さんになるのかは非常に興味深い。細川さんのような立場にいる党の党首がなる可能性は高い。その場合、どことどこが手を組んで多数派を構成するかも見ないといけない。ただ、こうなると権力闘争でしかない。政治の中身がそれで変わるわけではない。そんなことを続けていては日本はおかしくなってしまう。
新党を作るかどうかは別にして、石原さんは新党を作るにしても何をするかを示さないと国民はついてこないと言っている。政権を取るためだけに新党を作ったり、どこかと組んで多数派を形成しても、何をするかハッキリしなければ意味がないと。これはまったくその通り。
では、新勢力を結集するため何が結集軸になるのか。1つは対米自立ではないか。今の日本は対米依存。沖縄はじめ、これだけの他国の軍事基地がある国はない。アメリカ軍には特権を認めている。安全保障についてはアメリカに依存しているのが現状だが、それをずっと続けていくのか、それで独立国と言えるのか。日米関係、日米同盟は大切だが、これほど依存度が高くていいのか、対等な日米関係を深く考えてもいいのではないか。
それから憲法改正。これも慢性的な年中テーマ。どの政党も賛成だが、どの党も言うことが違う。少し議論は始まっているが、言うだけでなかなか進まない。憲法も長い時間が経てば、そぐわない部分も出てくる。首相公選制もそう、東日本大震災など非常事態が起きた時にどうするかという規定も今の憲法の中にはない。ドイツは何回も憲法を改正している。国際情勢も変われば国内情勢も変わる。それに応じて基本法を変えていくのは当たり前のこと。そろそろ正面から取り上げて、新しい勢力を作る時に全面に掲げてもいいのでは。
もう1つが「和」。和の精神を政治の理念の中心に据えるかどうか。小泉さんまでの戦後の自民党政治の基本理念は和だった。共同体を大事にして、相互扶助でやってきた。しかし、小泉さんの時に、それでは国際社会に太刀打ちできないと競争市場主義に変わった。これで随分地方は疲弊した。
最後に、国民も何かあると政治家を批判する。それはそれでいいのだが、それだけではダメ。政治家にしっかりしてほしいのはもちろんだが、我々も参加意識を持っていかないといけない。選挙だけでなく、さまざまな議論に参加していくという国民意識の変革も必要ではないか。
2012年正月の政局は、目に映ってくるのは混乱。その焦点は消費税の税率引き上げの問題があるのも事実。しかし、その一方で日本の政治は大きなうねりを見せ始めている。これを敏感に感じ取ってほしい。生みの苦しみのようなもので、大きくうねらなければ次のステップは踏めない。そういう目で次の政治現象をとらえてほしい。今年は辰年。辰年にふさわしい動きがいろいろな形で出てくるはず。
