
救命救急センター併設病院の議論が進む中で、新潟県では、地域住民に医療現場が抱える課題を共有し、地域全体で安全・安心な医療提供体制を進めていく契機にしようと、29日午後2時から、燕市文化会館大ホールで、「県央地域医療シンポジウム〜地域で考え、地域でつくる 安全・安心な医療〜」を開催。120人ほどが参加した。
同シンポジウムは、昨年6月18日に三条市で開催されたものに続いて2回目。それから、約半年の間に、医療関係者によるワーキングチームで具体的な医療提供体制の検討を重ね、その結果を来月中旬に開かれる、市町村長を含めた救命救急センター及び併設病院等のあり方検討会議に報告し、地域全体の合意形成に取り組むことになっている。
この日のシンポジウムは、基調講演とパネルディスカッションの2部構成で行われ、開会で、県の若月道彦福祉保健部長は、「近年の地域医療をめぐる環境は厳しいものがある。その1番のポイントは医師が不足していること。その中で、地域医療の体制をつくっていくのか、確保していくのかが課題になっている。県央医療圏でも、病院に勤務する医師の減少が顕著になっている。また、救急患者の受入の中心となる病院がないことで、救急患者の皆様が医療圏を超えて、他の医療圏に搬送されることも多々ある」と県央地域が抱える医療課題について触れた上で、「その中で、地域で県民が安心・安全な医療を受けられる体制をつくっていくにはどうしたらいいのか。また、地域で暮らす一人ひとりが県央地域の医療提供体制を安心・安全なものにしていくためにはどうしたらいいかについて考えていく機会にしたい」とシンポジウムの目的を説明した。
第1部の基調講演では新潟大学大学院特認教授で、県央地域に先んじて救命救急センター併設病院の2015年の開院に向けて準備を進めている魚沼地域で、医療関係者と地域住民が医療知識を深めようと行っている地域医療魚沼学校教頭の井口清太郎さんが、「地域医療を支えるために〜魚沼学校の取組より〜」のテーマで話した。
井口さんは、地域医療の問題の1番を実際の医師数より必要な医師数が上回っているためと指摘した上で、県民が健康に長生きすることで、必要な医師数を少なくすることが地域医療の崩壊も防ぐと訴えた。
人口10万人あたりの医師数は、昭和35年から右肩上がりで増加しているが、首都圏など特定の地域に集まる偏在により、地方で医師不足の問題が大きくなっている。新潟県でも昭和35年以降の人口10万人あたりの医師数は増えているが、全国平均の230・4人に比べると、191・2人と少なく、全国で42番目という状況。さらに、県内でも偏在は起こっており、新潟医療圏254・0人に対し、県央医療圏は133・9人と県内の7医療圏で魚沼圏域に次いで医師数が少ない。
また、医療の高度化で、以前は1人で行えた医療行為が、現在では、2人、3人と必要になっていることも医師不足に拍車をかけている。
井口さんは、日常的に介護を必要とせずに自立した生活ができる期間の「健康寿命」を示し、地域住民1人ひとりが自ら健康管理し、医療機関にかかる回数を減らすことで、地域医療の崩壊を防ぐことができると述べ、「福沢諭吉は『天寿を全うするは人の本文を尽すものなり』と言っている。魚沼では『PPK88』を推奨している。『ピンピンコロリ88歳』。お迎えがくるまではピンピン元気。米寿まではお迎え無用。そして最期はコロリとさようなら。長寿よりも天寿を全うできる方が大事だと考えている。元気で80歳を超えられる地域にしていきたい」と講演を締めくくった。
第2部では、県の行政報告に続いて、パネルディスカッションが行われ、井口さんをコーディネーターに、燕市医師会長の古川伸夫さん、新潟県済生会三条病院副院長の郷秀人さん、厚生連三条総合病院副院長の岩渕洋一さん、燕労災病院循環器科部長の宮北靖さんをパネリストに迎えて、「地域医療の現場から〜県央地域医療の現状と課題〜」について話し合った。
(石山)
パネルディスカッションの要旨は次の通り。
* * *

井口―まずはパネラーの皆様から日々診療を行っている立場から、県央地域の医療提供体制の課題や今後の方向性についてお話しいただきたいと思います。
古川―燕市医師会では在宅当番制と県央応急診療所、西蒲急患センターの3本柱で救急医療に携わっています。現在の応急診療所では忙しい時には200人近い患者さんが来られます。ただ、立ち上げる時から問題だったのは、ファーストタッチをするのは問題ないのですが、問題は受け入れ。中には我々では看られない患者さんがいます。当初は、2次病院の7病院が引き受けるという前提でしたが、なかなか機能せず、県央で対応できない現状になっています。
ただ、現実として、どの病院も勤務医の不足によって疲弊しています。現実にこの10年間で30人の勤務医が減少しているのが現実です。我々が地域医療を担いつつ、救急医療も行うためには、24時間の救急体制を持つ、救命救急センターと併設病院が必要と考えます。
そこに医師を集めるためには400床以上なければ、なかなか集まってくれません。そして、設立にあたっては地域医療に意欲のある院長、トップリーダーを迎えたいと思っています。各科においては、指導医となる名医を集めてこなければなりません。基幹病院を造るには、現在ある既存病院は縮小せざるを得ません。今の病院を縮小するということは、地域住民の方に迷惑をかける、負担をかけることになりますが、できるだけ負担をかけないことも考えていかなければなりません。
県央地域というのは733平方キロメートルしかありません。県内の2次医療圏の中で1番狭いエリアです。そして、下田や加茂の一部を除けば山もなく、平地が多い。ここに基幹病院ができ、既存の病院とうまく連携をとることができれば、非常に良いエリアが確立でき、他の医療圏からも県央医療圏に入ってくることもあるのではないでしょうか。
現在の病院が危機的状況にあるということは、住民の皆さんの生き死にに関わることです。その危機意識が不足しているように感じます。それを住民の皆さんからもよく理解してもらうことが必要と考えます。
郷―応急診療所からの受け入れの問題が出ましたが、受け入れ拒否をしているわけではなく、受け入れられないというのが現実です。当院では、時間外は当直の医師1人、看護師1人で看ています。受け入れていないわけではないですが、緊急の時に専門の医師がいなくて受け入れられないということです。
救急医療をやると、病院としては赤字になります。ただでさえ、病院は経営が難しい中で、救急医療に力を注げば注ぐほど赤字になっていくという実態もあります。
当院では1人の医師が月に2・5回くらい当直をやっています。当直の翌日が平日の場合は普通の勤務になります。当直の翌日は休めるようにすればいいのではないかという意見もありますが、医師不足でできない状態です。さらに、当院の医師の平均年齢は49歳ですが、20年間で10歳上がっています。このままでは医師はいなくなってしまいます。
当院は協力型の研修指定病院ですが、この4年間は研修医が1人も来ていません。その理由は、研修医は救急医療を学びたいという人が多く、県央地域が救急医療に積極的ではないというイメージが植え付けられているからだと思います。
住民の方への要望ですが、時間外は十分な診療ができないということを覚悟して来ていただきたいと思います。コンビニ受診という言葉がありますが、コンビニは24時間同じものを提供できますが、病院は当直医1人、看護師1人しかいませんので同じものは提供できません。そして、救急車をタクシー代わりに使うこともやめていただきたいと思います。
そして感謝の念を持っていただきたいと思います。医師は大変な中でも頑張っています。そこで、最後に患者さんから感謝の言葉をいただくと、看てよかったという気持ちになります。それが、昼間と同じような診療ができないと、クレームをつける患者さんもいます。そうすると、中には、そういうことが嫌で辞める医師もいます。
岩渕―全体で医師が減っている中でやりくりして、より良くするというのは難しいです。そうなると、24時間チームとして働ける医師が必要となるので、勤務として働ける救命救急センターが必要になり、基幹病院が必要となります。
規模は500床は必ずいります。理由としては研修医を集められる研修病院を造るのが絶対条件です。県内の7医療圏で研修病院がないのは県央医療圏だけです。1年間に7000人の医師が生まれていますが、県央地区には基本的には1人もいません。県内でも新潟、長岡、全国的には東京。京阪神など大きな都市で医者になって研修します。多くの医師は、初めて研修した場所が大事な経験になり、関係ないところでも、そのままそこで頑張ろうという人が多いです。つまり研修医を呼べる病院を造ることが必要です。
研修医が来る500床規模の基幹病院を造り、県央に医師を集めれば、新潟県全体の医師を増やすことにもつながってきます。会社でもそうですが、新しい人が入り、若い人とベテランが一緒になって新しいものをつくっていく形が1番いいのではないでしょうか。
宮北―医師数は少しずつ増えていることになっていますが、一方で、医療内容が高度化し、20年前には1人でできたことが、2人、3人と必要になっています。さらに、リスク対応も厳しく問われ、そこにも手をかけなければなりません。同じ医師数でも同じ医療ができなくなっています。さらに県央地域は医師数が減っている状況です。
新しい医師は来ず、現在いる医師は年をとっていき、少しずつ抜けていきます。かといって大学にも補充してくれるような力はありません。結果、どんどん減っているのが現状です。
このままではじり貧の状況で、考えられるのは、病院を集め、大きな病院にして、余力できるようにして、そこに新しい医師に入ってきてもらう必要があると考えます。
井口―話を整理すると、1つは各病院とも頑張ってはいるが、医師が減り、救急医療を含む高度医療の対応が難しくなっている、研修医を集めることができる病院のためには核となる病院が必要、役割分担が必要になってくる、そして、住民の皆様への適正受診、意識改革が必要という四点になると思います。
医師が集められる病院、魅力のある病院というのは具体的にどういう条件が必要となるのでしょうか。
宮北―ある程度の規模があり、各科がそろっていて、たくさんの医師がいて、それなりの高度医療もできることも必要です。救急医療も若い人には魅力的で、そういうことをできる病院でなければいけません。
井口―臨床研修病院で全国で成功しているところを見ますと、共通しているのは救急を勉強できる病院です。県立新発田病院は救命救急センターをつくり、研修医の中では1番人気の病院になっています。富山県の魚津市民病院は、救急を身につけることを売りにしていて全国から研修医が集まっています。救急は研修医がやって、常勤の医師も相談には乗りますが、当直はすべて研修医で回すような形で成功しています。
この地域では役割分担をどのように構築していくべきと考えますか。
岩渕―基幹病院がどういう性格を持っているかが決まらないと分かりませんが、少なくとも今の病院はいろんな面で能力が落ちてしまいます。身近な病院からある分野の専門の医師がいなくなることもあると思います。特に急性期は基幹病院が担うことになりますので、今の病院で看ることは難しくなると思います。7病院がある中で、行政からどういう病院にしてくださいというのは難しいので、基幹病院の性格が決まれば自ずと決まってくるのではないでしょうか。
井口―厚生労働省が進めている中では、病院完結型医療から地域完結型医療にという話があります。急性期から慢性期まで1つの病院で看るのではなく、地域全体で一連の流れを看ていこうという役割分担が推し進められています。
住民の意識改革の必要性の話もありましたが、周知のためにどのような取り組みが必要でしょうか。
郷―救急車で搬送される半分以上は軽傷。消防庁から救急車をうまく使いましょうというパンフレットも出ていますが、こうしたもの、そして、時間外に病院にかかる症例なのかどうかということも勉強してもらいたいと思います。個人で勉強するのは難しいという話もありますので、行政側が、今回のシンポジウムや話し合いの場を持つことができれば。
井口―応急診療所は医療連携を構築する上で大きな役割を担っていますが、基幹病院ができた場合の連携体制のイメージはどのように考えていますか。
古川―軽傷患者を応急診療所で安心して看ることができるようになるのでは。後方支援病院があるということは不確実性の高い医療では心強い。診療所と基幹病院の連携がうまくいけば、我々は学校医や産業医、市の健康づくり作業にも参加しやすく、プライマリ・ケアに力を注げるようになるのではと思っています。
井口―ここで会場から質問を受け付けたいと思います。
会場―なぜ県央地域で医師が増えないのでしょうか。
井口―県央に大きな病院がないのが1つの要因だと思います。例えば長岡の研修医を多く集めている病院は、いずれも500床を超える規模の病院になっています。大きな病院が研修医を集めるというのは全国的な傾向になっていて、小さな200床規模の病院は医師を集めにくいのが現状です。例えば、200床規模の病院で各に医師をそろえようとなると1つの科に2人。そうなると、2日に1回は拘束になり、それが続くと医師もへたってしまいます。それが400床規模になると単純に倍。4人になれば4日に1回でよくなり、疲労度はかなり違います。
会場―500床規模の病院を造るために、どうやって病床数を集めるのでしょう。また、医師はどう集めるのでしょうか。
郷―今、残っている病床数は78床ですが、これで基幹病院を造るわけではなく、今ある病院からベッド数を集めようということになっています。今の病院はベッド数が減っていく可能性があります。それが平均的に減るのか、どこかの病院が多く出すかは分かりませんが。
岩渕―医師は、県央地区にいる医師が120人。そこから80人集めては、ほかの病院が成り立たなくなります。規模が決まり、目的が決まったら、コネでも何でも使って県央地域に医師を呼んでくるしかありません。そのためにも、ビジョンをどれだけ示せるかにもかかってきます。研修医を集めることでも、今は研修医が自分で研修先を選べるようになっていて、450床から700床の病院に集まっています。県内で、県央は唯一、研修病院が無いと言いましたが、実は研修病院でも研修医がゼロという病院もあります。研修病院を造ればいいというものではなく、魅力的な研修病院にしなければいけません。
会場―7病院で平日夜間の当直の振り分けはできないのでしょうか。
宮北―情報として共有はしていますが、現状では科別の分担はできていません。各病院が医師が減っている中でなんとか当直をやりくりしている状況で、さらに科別に7病院でローテーションを組むということは物理的にも難しいです。
会場―患者力を高めるためにはどうしたらいいのでしょうか。
郷―いろいろなパンフレットもあり、こども119番などもあります。しかし、それがなかなか周知されていないので広報の必要性があると思います。後は、井口先生の魚沼学校の話もお聞きして、私も地域に入っていって一緒に考える機会を持ちたいと考えています。
