黒染めで埋もれた製品を復刻
コト・ミチ人材とブランド構築 (株)テーエム・ニシムラデザイン
 2018年01月04日冬季特集号掲載
 新潟県三条市金子新田、(株)テーエム(渡辺竜海社長)は、同社のステンレス黒染め加工の技術を体現する新ブランドの構築を進めている。技術そのものをブランディングし、一般消費者にも黒染め加工を認知してもらうことが目的。同市月岡二、ニシムラデザインの西村隆行さんをディレクターに迎え、燕三条地域の製品を黒染め加工によってよみがえらせることが基本コンセプト。今年五月の発表、東京ビッグサイトで開かれる展示会・インテリアライフスタイルへの出展を目指している。

 ステンレスの黒染め加工は2012年から本格受注しており、2016年には加工技術そのものを「玄」としてブランド化。昨年10月には玄による製品開発を行い、初の自社製品を発売したが、玄とは切り離した新たなブランドを再構築する。

真剣な表情で新ブランドを語る 「身近で毎日使う、いつも触れてもらえる製品を」と、新ブランドでは黒染め加工を生かしたテーブルウェア製品の開発を模索している。ディレクターの西村さんは「燕三条の強みによって、弱みをクリアし、新たな価値を創造する。具体的には表面処理加工業者で製品を形作る技術はないという弱みに対し、燕三条の地場にあるという強みを生かし、黒染めによって廃番製品に新たな価値を与えたい」と構想する。地域のテーブルウェアメーカーが利用しなくなった金型やデッドストック品に着目して、「レトロ」、「ナチュラル」などのキーワードで価値を創造する。

 テーエムでは鉄の黒染め加工が主力で、ステンレスの黒染めは全体の1割程度。渡辺社長は「ステンレスも鉄と同じような品物の加工依頼があるものと考えていたが、医療、洋食器、ハウスウェア、建築金具など、鉄の表面処理とは違った流れができた。ただ、スポット的な発注が多く、継続的な発注につなげるためには、より多くの人に黒染めを知ってもらわなければならない。新ブランドは、一般への周知を担う」と、新ブランドが担う役割を説明し、ステンレスの黒染め加工を全体の3割程度まで引き上げたい考え。

 昨年10月には「玄」として黒染めの製品を発売したが、加工技術と製品で同ブランドではユーザーに混乱を招きかねないと「ゼロスタート」の道を選んだ。

 渡辺社長は「初めての自社製品で加工やパッケージの取りまとめなどを学ぶことができた上、市場に高額でも価値を認めて下さる方がいたことで、黒染めの製品の可能性を感じることができた」という。

 西村さんをディレクターに迎えた新ブランド構築は昨年10月下旬にスタート、三条市が「独自の価値づくりから流通まで世界観を構築し、展開する」コト・ミチ人材から支援を受けて市内企業が行う製品開発、販路開拓を支援するコト・ミチ人材活用事業の採択を受けている。

 渡辺社長は、同じく三条市が、中川政七商店の中川政七社長をメーン講師に、市内で商品開発プロデューサーを育成しようというコト・ミチ人材育成事業の第1期受講生で、西村さんは第2期受講生。(株)近藤製作所、テーエム、(有)樋口工作所、(株)ヤマトキ製作所、レジエ(株)で作るグループ「DEN」の製品のパッケージデザインを手がけたことがきっかけで、燕三条工場の祭典のレセプション「奏でる工場」にも携わっている。

 西村さんは、もともとはグラフィックデザインが専門で、燕三条ものづくりメッセのロゴ、キッザニアマイスターフェステイバルのパンフレットやロゴ、かんきょう庵の空間リニューアルなどを手掛けた。「これまでグラフィックデザインをする上でディレクションを行うことはあったが、コト・ミチ人材育成事業によって「ディレクションにグラフィックデザインをプラスできるようになった」。テーエムの新ブランドでは「デザインに関わるすべて(渡辺社長)」を手掛ける。

 黒染めは金属の表面に化学変化を起こして酸化被膜を作る技術で、寸法の変化がほとんどないこと、複雑な形状にもむらなく施せること、高級感などがメリット。口に入れても問題がなく、手術用の器具や注射針などに施すこともできる。「金属が誕生した瞬間から存在する化学変化を技術として確立した」という神秘性、奥深さも包含している。

 「スポットとはいえ医療用の発注は、ユーザーサイドから要望があってこそで、まずはステンレスの黒染めを認知してもらい、メーカーに対して声を上げてもらうことで、加工の需要も増えていく」と西村さんも渡辺社長と考えを同じくして、黒染めの魅力を分かりやすく伝える製品、ブランドを練っている。
                                             (外山)